GAKUヒストリー12

思春期をむかえ、俺は声変わりもして落ち着いた少年になっていた。

あいかわらずの病院生活で、何も自分では出来ないので何か用を頼みたい時は

看護婦さんの様子を確認し、ころあいを見て呼ぶようにしていたし、頼む事も最小限にしていた。

その頃から周りの様子を感じ取ることに敏感になってきていた。

いろいろな事がわかるようになってきていたし、看護婦さんの言動も気になるようになってきた。

男子は年頃になると性への関心も出てくるし、身体のほうも変化してくる。

それは生理的な事だし、そうなるなというのも変な話なのだが、このS病院ではそれは通用しないようだった。

年頃の男子が排尿介助を受けている時だった。

看護婦さんは年増のおばさん看護婦さんだったが、彼は思春期ということもあり、勃起してしまったらしい・・・

その時の看護婦さんの反応は!

 「気持ち悪い!何考えているの!」と部屋中聞こえる声で怒りながら言った。

  その後その少年が小さく「ごめんなさい・・・」と言うのが聞こえた。

またある時は廊下の片隅で井戸端会議していた看護師達がこう言っているのが聞こえてきた。

ある女子の事について

 「生理がくる度に、面倒くさいわよね!

 「あんな子宮なんてどうせ使わないんだから取っちゃえばいいのにね!」

俺はその話を聞いた時本当に悲しかった。

看護婦さん達と俺との距離は1.5mくらいだった。

俺は車椅子に乗り廊下を移動する最中だったが、完全に聞こえているのは分かっているかのようだった。

子供達はひっきりなしに

「かんごっさ〜〜ん!」

「かんごっさ〜〜ん!」

と排尿が近くなると叫び続ける。

「もれちゃうよ〜」

「もれちゃうよ〜」

本当に必死の我慢しているのだ。

しかし、その声に対し彼女達はこう言うのだった。

「順番にやってるのだから、おとなしくしてなさい!」

「あんた達はやってもらってるんだからちゃんと言うことをききなさい!」

なかにはもらしてしまう子もいた。

もらしてしまったらもらしてしまったで今度は怒られるのであった。

そのような態度をとるある一部の看護婦さん達は、何をするのにも面倒くさそうな表情を浮かべて仕事をしていた。

そしてそのようなやりとりを見ていた俺はやるせなさとむなしさで心はいっぱいだった。

俺たちにも自尊心があるし傷つく心もある・・・・・

俺はそんな光景をみるたびにふつふつと怒りの感情を抱いていた。

どうしてそんな言葉が言えるのか不思議でならなかった。

看護婦って聖職者ではなかったのか?

そしてそんな思いを抱いていたのはもちろん俺だけではなかった。


しかしみんな我慢をしていた。


そしてこの頃俺が意識するようになったこと。

それは死についてだった。

それはこの病院では普通の日常で常に隣り合わせであった。

身近な級友たちが相次いで亡くなっていく・・・・

そしてその事はあまり大げさな事ではないかのようにひっそりと見送られていく。

まわりの子達は完全に死にたいして麻痺しているかのようだった。

ある子は

「なんだまた逝っちゃったか!」などとと言った。

みんな特に動揺したり悲しむ様子もなく、たんたんと生活していた。

死に対し慣れっこになってしまい、感情も鈍感になっていた。

俺はまたそんな様子をみているだけで、やるせなくなり、こんな生活から抜け出したいと思うようになっていた。

俺はある年の近い同室の少年といつも一緒にいるようになっていた。

彼は筋ジストロフィーで重度の方だった。

いつもベットの上で生活していた。

彼の名前は堀内君といった。

ホリと呼んでいた。

俺は動けない身体だが、ホリの読んでいる本のページをめくったり、ストローを口に入れたりと彼の手助けをしていたのだ。

ホリはコーヒーが好きだった。

俺はホリに頼まれると、売店に行き、缶コーヒーを買ってきた。

そしてコップに移してストローをさし、ホリに飲ませてやった。

ホリはにっこり笑って

「美味し〜」と言うのだった。

いつも病棟内でのイベントがあるたびに、一緒に歌を披露していた。

狩人の あずさ2号 だった。

ホリはいつも明るく朗らかで、俺を笑わせてくれた。

彼は多弁で話し上手だった。

口下手な俺はホリと話していると本当に楽しかったし、いわゆる普通の中学生のたわいのない話でよく盛り上がっていた。

そんな彼がある時期から肩で息をするようになった。

俺は内心穏やかではなかった。危ないかな・・・・と感じはじめていた。

しばらくして、彼は個室に移ってしまった。

個室に入るともう会うことは出来なかった。

俺は彼の部屋から出てくる看護婦さん達に容体を聞いてまわった。

しかしどの看護婦さんも

「大丈夫!大丈夫!心配いらないから!」

と言うだけであった。

個室に入って一週間が過ぎたころ、ホリは逝ってしまった。

最後にお別れを言うこともできなかった。

看護婦さんに霊安室での面会を頼んだ。

霊安室は廊下のずっと奥の暗い場所にあった。

看護婦さんに連れられて霊安室に入った。

ホリは棺桶のような箱に入れられており全身を白い布で覆われていた。

顔も見ることもできず、覆われた布の下で小さくなってしまったホリを見ていた。

頭の上の焼香台があり、お線香をあげた。

線香の煙はまっすぐ真上に伸びていった。

ろうそくの火も揺れることなくまっすぐな炎であった。

お線香をあげながら俺は泣いていた。

この時俺は心に誓った。

俺はホリの分まで生きてやる!と。

だがホリの死は俺にとってそんな甘いものではなかった。

彼が死んでから俺の生活は一転してしまった。

何をしても楽しくなかったし、笑わなくなり感情を出すこともなくなった。

そしていつも考え事をするようになっていた。


俺たちはいったい何のために生きているのか


この隔離された箱の中で、生きる希望もなく生きていくのが

無意味なものに思えた。

俺たちの役割はいったい何なのか!

そんな事を考えているうちにだんだん苦しくなり

ある時ふと

 死ねば楽になるのかな・・・・

死んでしまえばそういう事も感じなくなるし、楽になりたいと思った。

階段から落ちて死のうとしたこともあった。

俺のいた病棟は2階にあり、階段があったのだ。

そしてその場所は誰でも行くことが可能だった。

階段の上から下を見下ろした。

ここから落ちれば逝けるな・・・と思った。

俺は1時間以上その場にいた・・・・

しかし誰も近くを通る事もなく時間ばかりが過ぎていき、ふと

我に返った。

こんな事をするのはばからしい!

こんな事をするくらいならもっと俺が出来る事をやっていけばいいんじゃないか!?

障害あるなしかかわらず俺を必要としてくれる人のために何か出来ることを探すべきではないのか!?

その時はすんでのところでとどまった。

この頃は多感な時期で傷つくことも多かったが

この後、俺は意欲的にさまざまな事を始めるようになっていった。


      to be continue




0コメント

  • 1000 / 1000

SMAP STATION

最近深刻化してきている地球危機について様々な情報を基に地球の未来を考え、今何をしなければいけないのか? 日々模索しております。 もう時間がありません! 未来の子供を守るために・・・